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半蔵VS蛇女 死闘!激闘!?卓上決戦!! ピン球に賭けろ忍の誇り!!+乙女の柔肌

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 ───キィンッ!
 鋼を打ち交わす甲高い音。
 バガンッ、と何かを砕く鈍い響き。
「飛鳥さん、後ろ!」
「やああぁぁぁ!」
「うわわわっ……」
「雲雀ッ!」
「くっ、まだまだぁ!」
 戦陣にこだまする少女たちの咆哮。
 満月の輝く夜空を舞台にして、乙女たちの舞はいつまでも続く───。

「そこまでだ!」
 やがて、パンッ、と乾いた音とともに渋い男性の声が辺りに轟いた。
 一段高い場所で月光を背にして立っていたその男性は、
「はあ……はあ……。お終いですか?」
 彼の言葉に動きを止めた眼下の少女たちの問いに短く頷き、そうしてもう一度手を鳴らした。
 その音を合図にして、少女たちを取り巻いていた無数の人影が霧散する。
「やっと終わったぁ……」
「もーくたくただぜ」
 あとに残った五人の少女は、皆息も絶え絶えに額の汗を拭う。
「霧夜先生!」
「なんだ、飛鳥?」
 男性は自らを呼んだ一人の少女に応えて段差を降りた。
 自然に彼の元に集まってくる少女たち。
 皆、表情に疲労の色は隠せないものの、生きた目で彼を見上げている。
「今日も特訓ありがとうございました!」
 先んじて深々と礼をした少女の声は、どこにそんな元気が余っていたのかと思わせるほど明るく、
「ありがとうございました!」
 彼女に続いた他の少女たちも、弾む息の中、それに負けない大きな声で続けざまに礼を述べたのだった。
「……」
 そんな少女たちの様子に、彼女らの指導者である男性は、
「お前たち、良い顔をするようになったな」
 教え子たちの成長に満足して少し表情を和らげた。
 そして、彼の賞賛に嬉しそうに笑ってみせた少女たちに、
「お前たちは強くなった。そろそろ各自特訓の締めに入っても良い頃合だろう」
 自らの所感を告げると、
「本当ですか!?」
「いよいよですね」
「おっしゃー! 気合が入るぜ!」
「頑張ろうな、ひばり」
「うんっ。ひばりも皆の足を引っ張らないように頑張るよ、柳生ちゃん」
 少女たちは喜びながらもその言葉に浮かれず、自発的にそれぞれに気を持ち直して真剣な表情を形作る。
 今となっては頼もしさすら感じる彼女たちの姿に、男性は確かな実感を得て一人小さく頷いた。それから、
「では準備をしておこう。三日後、特訓の総仕上げを執り行う」
 少女たちにそう表明し、さらに、
「その間、お前たちは身体を休めておけ。───蛇女との決戦も近い」
 休暇を指示して言葉を締めた。
 あえて出した宿敵たちの名に、しかし今の少女たちは臆することなく、
「はい! 超秘伝忍法書は必ず取り返します!」
「委員長として任務を全ういたします」
「待ってろよ、蛇女の奴ら!」
「……ひばりは、皆は必ずオレが守る」
「ひばりにできること頑張ってみせるよっ」
 各々の決意を新たに抱く。
 少女たちの気合に満ち溢れた表情に、再び頷いた男性は、
「では三日後に会おう」
 最後に解散を宣言して闇に消えた。
「はい!」
 彼に応えた少女の明朗な声は、天上を照らす月に吸い込まれていった。


* * *

 明くる朝、忍の少女飛鳥は、
「あ、あれ? 皆?」
 目の前に現れた、予想だにしなかった光景に素っ頓狂な声を挙げて、我知らず扉の前に立ち尽くした。
「おはようございます。飛鳥さん」
「あはは。やっぱり飛鳥も来たか」
「斑鳩さん! かつ姉! それに柳生ちゃんにひばりちゃんも───」
 視線の先、いつもの教室にはいつものメンバーが顔を揃えていて、
「……おはよう」
「おはよう飛鳥ちゃん!」
「な、なんで皆いるの? 今日から三日間は休みじゃ……」
 飛鳥は挨拶も忘れて驚きに目を丸くしたのだった。
 そんな飛鳥に上級生二人、斑鳩と葛城は、
「そ、それがですね……」
「いやー、まあなんつーか?」
 照れ臭そうに頬を掻いてみせる。対して下級生の二人、柳生と雲雀は、
「皆、お前と一緒ということだ。飛鳥」
「なんだか落ち着かなくて……」
 比較的素直に心境を吐露した。
「そ、そっかぁ」
 面食らったままとりあえず自分の席に移動して荷物を置いた飛鳥は、
 なんとなく気まずさを感じて二言目を言わずに静かに着席する。
「……」
 シンとなる教室。
 教卓には昨夜別れたばかりの担任、霧夜の姿は当然無く
 、普段の賑やかさが嘘のように成りを潜めてしまっていた。
 不自然な静寂が空間を支配して、気が落ち着かない。
 飛鳥は思う。
 そもそも今日は朝からずっとそわそわしていた。
 何か言いようのない焦燥を覚えて、気が付けば学校に足が向いてしまっていた。
 休息を告げられて誰も居ないのが分かっている筈なのに、それでも教室の扉を開けてしまったのは───。
「そっか。そうだよね」
「どうしましたか、飛鳥さん?」
 不意に独白した飛鳥に皆の視線が向いた。
「飛鳥ちゃん……?」
 その視線を一つ一つ見返すように、くるりと顔を動かした飛鳥は、
「やっぱり皆仲間だもんね! 不安に思うことも皆で分かち合わなきゃ!」
 そう言って立ち上がりながら両拳を高く突き上げてみせた。
 大げさに振舞った飛鳥に、暫くぽかんとする四人。
 しかしやがて誰ともなく、
「……ふ、ははっ」
「くすくす。確かにわたくしたちは皆似た物同士ですね」
「うんっ! せっかく集まったんだし、皆で何かしようよ!」
 自然と笑みと会話が生まれ始めて、
「おっ、じゃあ自主トレでもするか!?」
「あ! それいいかも!」
「コラ! 霧夜先生には身体を休めろと───」
 すぐに教室は普段の騒がしさを取り戻す。
「まあまあお堅いこと言いなさんなって。」
「柳生ちゃんはどう?」
「オレは構わない。寧ろ身体を動かしたい気分だ」
「よーし。じゃあ決まりだね!」
「もう……。皆さんが無茶をしないかしっかり見ておかなければなりませんね」
 そうして、各自のトレーニングの支度が済む頃には、
 皆いつしか緊張は解けて晴れやかな心持ちで教室を後にしたのだった。

 時間はあっという間に過ぎて夕方。
 すっかりトレーニングに打ち込みすぎてしまった五人は息を切らせながら、
 しかし充実した顔で教室に帰ってきた。
「うぅん? 斑鳩また胸デカくなったんじゃないか?」
「ちょ! や、やめてください! 汗かいてますから!」
 最早焦りは掻き消えていて、着替えの間にも談笑が混じる。
「柳生ちゃんもおっぱい大きくなってない?」
「な、何を言い出すんだひばりッ!?」
「あはは。何か朝色々考えてたのが馬鹿みたい」
 軽口を叩き合いながら、そうして終えた着替えの後、
「ねえ皆。明日はどうするの?」
 飛鳥が皆に尋ねる。
「あーそうだな。どうしようか」
 机に腰を乗せて腕を組んだ格好でむむむと唸る葛城に、
 行儀が悪いと注意しつつ、
「流石に明日は休みましょう。体調管理も大切なことです」
 優等生の彼女らしい提案を促す斑鳩。
「賛成だ」
 彼女の提案にあっさりと返答した柳生は、
「ひばりはどうだ?」
 隣の雲雀に話題を振る。
「それは良いんだけど……」
 雲雀もその提案に同意してみせたが、何か思案するように一瞬言葉を詰まらせて、
「けど?」
「せっかくだから皆で遊ばない?」
 それからそんな案を付け足した。
 するとその言葉に、
「ひばりそれナイスアイディア!」
 いち早くその案に応じた葛城がパチンと指を鳴らして表情を輝かせる。
「なあ皆も良いだろ?」
 よっ、と小粋の良い掛け声で机から跳ね降りた葛城は、
 ニッと笑って彼女に注目していた仲間たちに問い掛けた。
「うんっ。それいいね! 皆で遊ぼう!」
 年相応の笑顔で声を弾ませる飛鳥。
「……ああ、そうだな。良い機会だと思う」
 静かに頷いた柳生も、普段のクールな顔の中に少しの柔らかさを混ぜてそんな風に応え返す。
「でしょでしょー! 皆で一緒にね!」
 自分の案が受け入れられて、えへへと表情を崩す雲雀。
 そんな微笑ましいやりとりを見守る上級生の二人は、
「斑鳩、あんたは?」
「遊ぶのは結構なのですが……」
「なんだよ。何か心配なことでもあるかのよ?」
「いえ、放っておけば皆さん疲れ果てるまで遊んでしまいそうだなと」
「ばっか。幾らアタイたちでもそこまで羽目外したりしないって!」
 まるで円熟した夫婦のような自然体で言葉を交わし合うのだった。
 教室に差し込む夕日。
 五つの影はそれからしばらくしても消えることはなかった。


* * *

 翌朝、とあるバス停。
「お、きたきた」
「ごめーん皆! 遅くなってッ!」
「大丈夫だぞひばり。オレたちもさっき着いたばかりだ」
 私服姿に大きなリュックを背負って走り寄ってきた雲雀に、
「ひばりちゃんっ。おはよう!」
「おはようございます。ひばりさん」
 他の四人はそれぞれに挨拶を掛けて出迎えた。
 彼女らは皆雲雀と同じ様に、私服に手荷物を携えていて、
「わあー。ひばりちゃんのリュック大きいね。何が入ってるの?」
「えへへ。実はお菓子ばっかり。だから見た目ほど重くないんだよ」
「おやつは五百円までだっけか?」
「え!? そうなの斑鳩さん……」
「変な嘘を言わないで下さい葛城さん! そんな制限いつ設けたのですか。ひばりさんも真に受けないで」
 普段の制服姿とも、戦闘時の忍装束とも、
 また違う年頃の少女らしい可愛らしさを振り撒いている。
「……」
 そんな歓談をわきにして、何やら沈黙したまま立ち尽くす柳生。
 細めた視線の先にはピンクを基調にしたフリル付きのスカートを閃かせる雲雀の姿があり───、
「ああ私服のひばりも可愛いなぁ」
「ッ!? 葛城ッ!」
 不意に耳元で囁かれた葛城の声に驚いて飛び上がった。
 反射的に持っていた鞄を自前の武器である番傘のように鋭く振り回しはしたが、
「ととっ、危ね!」
 いつの間にか後ろに回り込んでいた葛城を捕らえることはできず、虚しく空を切る。
「なんだよー。単なる感想じゃん」
 不覚、と眉を顰めた柳生に、カラカラと笑ってみせた葛城は、
「ほーら、そんな怖い顔すんなって。せっかく可愛い恰好してるのが台無しだぜ?」
「ちょっ! 止めろ!」
 再び一瞬の隙を突いて柳生の背後をとり、駄々っ子をあやす様に抱きかかえて担ぎ上げた。
「くす、柳生ちゃん可愛いー」
 そんな小さな子供の様な姿を見た雲雀が笑顔を向けると、
「あ……う、ひ、ひばり……」
 もがき暴れていた柳生はすっかり縮こまって顔を伏せるのだった。
「うわっ。柳生ちゃんが顔真っ赤なんて珍しいね」
「フフフ。私服のトキメキは少女を乙女に変えるのサ。こんな柳生を見れただけでもこの旅行は───ぶがッ!」
「いい加減に離せッ!」
 そうして、そんな寸劇を繰り広げているうちに、
「ほら皆さん、バスが来ましたよ。車内では静かにお願いします」
 やれやれと肩を竦めて声を掛けてきた斑鳩の後方から一台のバスがやってきたのが見え、
「よーし! 出発だッ!」
「おーっ」
「お静かにッ!」
 それぞれに逸る気持ちを募らせながら、バスに乗り込む支度を済ませたるのだった。

 暫く一行はバスに揺られて。
「着いたぜーッ!」
「うわー! 立派な建物だね柳生ちゃん!」
「ああ。良い場所だ」
 やがて、本日の目的地である山間の日本旅館に辿り着いたのだった。
 降車するなり真っ先に駆け出した葛城と雲雀、それに続いた柳生が旅館の風貌に歓喜している最中、
「あの、斑鳩さん。大丈夫ですか?」
「……全くあの人たちといったら、海の時といい今回といい……」
 飛鳥を付き添いに後から降りてきた斑鳩は、
 車内で散々はしゃいだクラスメイトたちへの注意疲れで頭を抱えて唸り声を挙げる。
「なあ斑鳩。ここ本当にタダで泊まれるのか?」
 そんな気苦労は露知らず、葛城が唐突に肩を組みながら彼女に問うた。
「え、ええ。ここはわたくしの家系の者が管理する旅館ですから……」
 いきなりずずいっと顔を寄せられた斑鳩はたじろぎつつ答えると、
「うっひょー! 流石はお嬢様!」
 葛城はいっそうテンションが上がったのか、その場でガッツポーズして飛び跳ねる。
 いい加減その舞い上がりっぷりに辟易した斑鳩は、
 葛城を窘めんと声を掛けようとした瞬間、
「あの、葛城さ───」
「ありがとうな斑鳩! 連れて来てくれて!」
 持ち上げかけていた手を逆にがっしり握られて、
 高いテンションのままお礼を言われてしまった。
 屈託のない笑顔で述べられた感謝の言葉に、
「そ、そうですか」
 斑鳩は二の句が継げずに生返事で応える。
「斑鳩さん。ありがとう」
「……ありがとう」
 さらに続けて下級生二人から頭を下げられた斑鳩は、最早小言を言う気を消沈させて、
「で、では参りましょう。まずは部屋に行って荷物を置かなければなりませんね」
 長い髪を翻して入り口の方へ歩き出だした。
「あっ、おい待てよ! 抜け駆けするなって」
「抜け駆けじゃありません! 宿泊の手続きをしに行くだけですっ」
「ま、待ってよ二人ともー!」
 足早に歩く斑鳩を慌てて追い掛ける葛城と雲雀。
 後に残された二人、飛鳥と柳生は、
「斑鳩。照れていたのか?」
「うーん……どうだろ? 付き合いきれなくなっただけかも」
 などと他愛の無い会話を二言三言交わして、それから彼女らを追って歩き出した。