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Prelude
back深夜、静寂に包まれる街にカチャカチャと不釣合いな音を響かせて進み行く一団があった。
暗闇に同化したかのような黒い法衣を纏った一人の神父と、その周囲を物々しい装備で護衛する数人の兵士達が、共に暗い夜道を歩いていた。
会話すら無く歩き続けるその一団からは、張り詰めた空気と緊張感だけが伝わり、少なくともこの進軍が只ならぬ物である事を窺わせた。
やがて彼らは路地裏へと入り込み、一つの建物の前でその歩みを止めた。
そこは、寂れた外見を持つ一軒家だったが、こんな夜更けにも関わらず、入り口の前には数人の男達が屯していた。
如何にもガラの悪そうな連中ではあったが、そんな連中には目もくれずに入り口へと向かう神父。いきなり現れた異分子に動揺しつつも、神父の前に立ち塞がろうとした男達は、
「オイッ! 神父がこんな所に何のよ───!!」
「邪魔だ」
その一言と共に叩き込まれた兵士達の長槍によって次々と昏倒されられていった。
「さあ、こちらです」
「うむ」
一瞬の内に邪魔者を片付けた兵士達に再び護衛をさせ、神父は建物の中へと入っていった。すぐに現れた地下への階段を降りた先、そこに見える扉からは僅かながらの光と声が漏れている。扉の前に全員の兵士を集結させた神父は、一度胸の前で十字を切り、
「……では、行くぞ」
静かに突入の合図を下した。神父の命に、互いに頷き合った兵士達が、扉を蹴破り一斉にその中へと押し入る。
「何事だオイッ! 」
「な、なんだてめぇらッ! 」
部屋の中に居た人間達は、突然の乱入者に声を荒げるも、
「全員静かにしてもらおうッ!!」
兵士達の恫喝と、自分達に向けられた鋭利な刃に顔を歪めながらもしぶしぶと沈黙した。一通りの制圧が終わったと見た兵士の一人が、
「神父様、どうぞ」
そう言って神父を室内へと導いた。
「地下室とは……やはり社会の底辺に属するような貴様らは、居場所においても底辺であるな」
入室するなりそんな皮肉を飛ばす神父は、その場に居た男達の険しくなる視線を気にもせずに、さらに続けて言う。
「やれやれ、このような場所に酒場の経営を認めた覚えは無いのだがな」
神父のその言葉に、カウンターらしき場所に立っていた、店主と見られる男が苦々しく舌を打った。
この場所は神父の言うように、非合法的に存在する地下酒場だった。
ついに教会からの差し押さえが来たかと背筋を凍らせるばかりの店主は、しかし思い切って神父に向けて口を開いた。
「……一体何の用だ!?客じゃないのなら帰ってくれ!!」
「何、今日はただの人探しだ───今日はな(・・・・)」
「───ッ!!」
店主の問いに、ニヤリと笑って答え返した神父は、
「さて、手早く用を済ませるか。このような場所に長時間居ては肺が腐る」
再びの皮肉を言い放ち、兵士を連れて店内を奥へと進んだ。