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Separation

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1. Side‐Y

 近頃、私の一番の親友は何処か様子がおかしい。休み時間に皆でおしゃべりなんかをしていても上の空だったりするし、普段は真面目に聞いている授業中でも、何か別の考え事をしているみたいだ。
「それではこの問題は東風谷に───おい、ちゃんと聞いとるのか東風谷!」
「え? あっ、は、はい! 何ですか先生?」
「何ってお前さんを当てたんだが……。東風谷、最近気が散っているぞ。もっと授業に集中しなさい」
「はい……。すみません……」
 今もまた先生に注意されてしまい、暗い表情で頭を下げたその親友・東風谷早苗は、少し離れた席にいる私にも見て取れる位にしょんぼりとして椅子に座った。先生が代わりの生徒を当てていく中、早苗の真後ろにいる、私とあの娘の共通の友達・なっちが早苗に声を掛けたようで、二人は何かを小声でひそひそと話し始めていた。そこへ───、
「よし正解だ。座りなさい浜野。期末試験も近いのだし、東風谷ももう少し気を入れ直して───って、コラそこの二人! 授業に集中しろと言ったばかりだろう!」
「あちゃあ……」
タイミング悪く、再び先生が早苗の方を向いてしまった。その様子に思わず頭を抱えてしまう私。
意外な展開でもう一度先生に怒られてしまった早苗は、
「ご、ごめんなさい!」
 今度は顔を真っ赤にして、慌てて先生に謝っていた。
なっちの方は特に悪びれた様子もなく先生に軽く返事をして、それから私に向かって「怒られちゃったネ」なんて感じで舌を出してウィンクしてきた。
 そんな二人の対照的な姿に、私はさっき先生に当てられていたもう一人の友人・浜野さんに目配せをして、一緒にやれやれと苦笑いを浮かべたのだった。

「───先生じゃないけれど、東風谷さん、この頃らしくないわよ?」
「そ、そうかな? 自分じゃ普段と変わらないつもりなんだけど……」
 浜野さんの指摘に、早苗が困った顔で首を捻って見せる。
「いやいや。一時間で二回も先生に怒られておいてそれは説得力が無いと思うよ。ね、ゆうちん?」
 お昼休みになり、私達四人はいつもの様に早苗となっちの席を囲んでお弁当を食べていた。なっちのフリに、私は食べかけのサンドウィッチを飲み込んでから答える。
「でも二回目のはなっちが原因でしょ」
「違いないわね」
 浜野さんの同意に、
「それは言わない約束だよー!」
 手厳しいよ、となっちは大げさに天を仰いで見せた。

 そんな、やっぱりいつもと変わらない談笑の中で───やっぱり早苗だけはどこか寂しそうな笑みを浮かべたままだった。