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Triple point

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プロローグ

「───ふわぁああ。よく寝た」
 昼寝から目が覚めて、まだショボショボするまぶたをこすりながら大きくアクビをしたあたいは、よっ、と身体を起こして立ち上がった。
その足元に、さっきまで使っていた布団がクシャクシャになっているのを見つける。たぶん、寝ている間にけっ飛ばしたんだと思うそれをつまみ上げて、
「……ちゃんと片付けておかないと、怒られるかなぁ?」
 そう考えたあたいは、だけどやっぱり先に、
「ま、後でいーや。それより、ノドかわいちゃった」
 寝起きでカラカラになっていたノドをうるおすことにした。手に持っていた布団をそのままほーちして歩き出す。
今のあたいの寝床になっている『ろふと』から飛び降りて、静かでしーんとした部屋の中を歩いた。
その奥にある『れいぞうこ』のトビラを開けて中をのぞき込んだあたいは、
「おっ! 良いモンがあるじゃない!」
 こっち(・・・)に来てからすっかりお気に入りになった『こーら』が置いてあるのを見つけて喜んだ。
『ぺっとぼとる』のフタを開けて、まずは一気にぐっ、と『こーら』を口の中に入れた。シュワシュワするのと甘さが口の中いっぱいに広がってきたところで飲み込むと、
「くっはー! やっぱりおいしいわこれー!」
 そういう感想がシゼンにこみ上げてきた。もう一口飲もうとしたあたいは、
「そうだ。なんかお菓子ないかな? 『こーら』にはお菓子がないとね!」
 そんなことに気が付いて、近くの棚を探し始めた。
「たしか、いつもはこの辺に───あ、あったあった!」
 すぐに見つかったそれは、『ぽてち』とかいう芋を焼いたお菓子。これもあたいの大好物の一つになっていた。
さっそく袋を開けようと手に力を込めたその時、
「あれ? でもこれって……」
 ふと、この『ぽてち』のことで何かを思い出しかけた。でも、
「んー……まあいっか。食べちゃおーと!」
 やっぱりそう考え直して、その袋を開ける。
開かれた袋からしてきた、いつも食べているのとはちょっと違う匂いに、あたいはワクワクしてすぐに一枚目を取り出した。
さっそくそれをバリッ、とゴーカイにかじる。口の中に感じた、ちょっとすっぱくて、でもそんな味を気に入ったあたいは、もっとたくさん食べようと袋の中に手をつっこんだ。そこへ───、

「ただいまー……ああ、全く暑いったらありゃしないわ……」
「ちょっと蓮子、いきなり玄関口に座り込まないで……」
「いや、だってさメリー……」

 さわがしい音といっしょに、今のあたいのどーきょにん(・・・・・・)の二人が『だいがく』ってところから帰ってきた声がした。
あたいは二人を出迎えに、『ぽてち』を持ったままげんかんへ向かう。短いローカの先にいた、げんかんで座って靴を脱いでいる二人の背中に、
「おかえり! メリー! レンコ!」
 おかえりを言うと、
「あ、ただいまチルノちゃん。良い子にしてた?」
 先にあたいに気が付いたメリーは、立ち上がってこっちをふり返った。
キレーな金色のかみの毛がふわってゆれて、優しい笑顔があたいを見た。そんなメリーに、なんとなくはずかしくなったあたいは、
「も、もちろんよ! そ、それよりこれ食べてみてメリー! なかなかおいしいのよ。あ、でもトーゼン、メリーの作ったゴハンの方がおいしいけど!」
 早口でそう言って、メリーの前に『ぽてち』を一枚差し出した。
「あら? これは何処に……」
 何でかフシギそうに首をひねったメリーに、あたいは、
「『れいぞうこ』の横の棚に入ってたのよ」
 『ぽてち』の袋を見つけた場所を教えてあげた。───そのしゅんかん。
「冷蔵庫の横の棚、ですってぇ……?」
「へっ!?」
 メリーに伸ばしていた腕が、横からガシッとつかまれた。その方を見ると……レンコがあたいの腕をつかみながら、ゆっくりこっちに顔を向けてきているところだった。
「や、やっぱりそれ、私が昨日買ってきたポテチじゃない! たしか言ったわよね? それ勝手に食べちゃ駄目だって……!!」
「……あッ!!」
 ニラんできたレンコのセリフで、あたいはようやく、さっき思い出しかけたことが何だったのか気が付いた。そう言えば、たしか昨日の夜、『こんびに』に三人で言った時にそんな約束をしてたっけ……!?
 立ち上がったレンコは、そのままぐいっとあたいの腕を引っぱって───、
「や、ヤバ……」
「チールーノー!!人のモノ勝手に食べるなっていつも言っているでしょうッ!!」
「いだあぁぁぁぁッ!!」
 空いていた片方の手で、あたいの頭にゲンコツを落としてきた。
 思わず涙ぐんで叫んだあたいの横で、メリーは、
「あらあら。全く蓮子も大人気無いわねぇ……」
 はぁ、とため息なんかを吐いていた。